2022/09/26 17:01

Curved Echo / Takeshi Yamamoto



福岡インディーシーンきっての名バイプレイヤーTakeshi Yamamoto。

昨今のコロナ禍に於いても多忙を極めていた彼が寸隙を縫って完成させた三作目のアルバム「Curved Echo」は、アンビエントな趣きを持ちつつ様々なアイディアが散りばめられた「極上のBGM」である。

彼が自分自身の音だけに向き合い作り上げた今作は、近年の音楽シーンのキーマン、Sam GendelやBlake Mills、或いはCarlos Nino周辺のLAのシーンとのリンクも感じさせる美しい作品となった。


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フジロックにも出演したプログレッシヴ・インストバンド「マクマナマン」では暴走する楽曲を繋ぎ止める肝となるベーシスト、全国各地で熱狂的な人気を誇るシューゲイズ・ロックバンド「SACOYANS」では多彩な音色とダイナミズムを共存させるセンスフルなギタリスト。

そして不定形の音楽家集団「SEA LEVEL」ではアブストラクトな音像を操るマルチプレイヤー、更に数々のバンドのサポートワークで示す確かな存在感。


福岡インディーシーンきっての名バイプレイヤーTakeshi Yamamoto。

昨今のコロナ禍に於いても多忙を極めていた彼が寸隙を縫って完成させたのが初のソロアルバム「Curved Echo」である。


今作は、ほぼ全ての音がTakeshi Yamamoto自身によって作られている。

所謂ベッドルームレコーディングで、Logicとアコギ、ベース、ギター用エフェクトペダル、それに2chのテレコというシンプルな環境のなか、特に具体的な音像をイメージすることなく制作を始めたとのこと。

各地で大反響を巻き起こしたSACOYANSのリリースツアーが終わり、久々にぽっかりと空いたスケジュールの隙間に何となく音を出してみる、そんなリラックスしたムードだったようだ。その過程も、言ってみれば「たまたま」自分が出した音にインスパイアされ、そこで初めてイメージが立ち上がり徐々に音を重ねていく、というある意味自分自身とのセッションのようなものだったという。

それは誰かに聴かせようという意識もなく粛々と進められていたのだが、出来上がった数曲をたまたま耳にしたHoney Records主宰YASU-PACINO氏がリリースを持ち掛け、そこから制作が本格化する。

今作のマスタリングを担当している小貫氏の助言を受けながら細部までの調整を経て完成。アンビエントな趣きを持ちつつ様々なアイディアが散りばめられた美しい作品となった。


アルバムのリード曲であるM3"Buenos Aires"はまさに出色の出来と言って良いだろう。不規則に跳ね合う電子音の茂みの奥から鳴り出すバスドラム。その抑制された響きのあまりの美しさに思わず息を呑む。


アコギの爪引きと電子音や環境音が奏でる豊かな響きにうっとりとするM1”Open”、M9"Bell"、M11"Room"。まるで時間が止まったような重層的なドローンのゆらぎに酩酊するM2"Hell Tour"、M5"Boat"、M7"Spoon"、M10"Out There"。

これらのアンビエントトラックは、Takeshi Yamamoto自身のミックスの拘りも随所に感じられ、音に包まれ心に沁み込んでいく感覚が心地良い。


M4"Ditto"は現代音楽とポストパンクが出会ったようなスリリングな逸品。ギターのスクラッチ音に絡みつくハーモニクス、まるで足踏みのようなくぐもったベースとの不安定なアンサンブルに唸らされる。


今作唯一のゲスト、SACOYANSのドラマーMiwakoが参加している2曲は、事前に彼が制作した音に合わせて彼女にドラムを叩いてもらい、それを持ち帰り更に音を重ね編集をするという方法が取られている。

M4"TR-2"はシンバルの美しい響きが印象的なジャジーな小曲、M8"August"は叙情的なコードワークとメロディアスなベースがどこかエモーショナルな気持ちを刺激してくる。


このアルバムを聴いてもしかしたらあなたは、近年の音楽シーンのキーマン、Sam GendelやBlake Mills、或いはCarlos Nino周辺のLAのシーンを想起するかもしれない。

実験的でありながらもジェントルな響き、高い音楽性とパーソナルな感性の共存、あくまでも音楽のために音が鳴らされるエゴのないスタンス、などなど僕はこのアルバムを聴いて自然と彼らとのリンクが思い浮かんだ。

とはいえ、Takeshi Yamamoto自身は全く意識していないとのこと。環境や文化が違えどそれはきっと同時代性なのだろう。音楽性や方法論以上に音楽に対する純粋なアティチュードにこそ共通点を感じるのはそういうことなのかもしれない。


僕はこの「Curved Echo」を何度となくと聴いているが、聴くたびに美しい音の響きに心奪われてしまいアルバムが終わったことにも気付かず我に返ると無音のなかポツンと自分だけがいる、ということを繰り返している。

かつてエリックサティは「家具の音楽」を提唱したが、「Curved Echo」はその系譜にあると言って良いのかも知れない。

鳴っていることも忘れるくらいの極上のBGMになりつつ心の奥底にまで響いてくる音楽。

Takeshi Yamamotoが自分自身の音だけに向き合い作り上げた世界観にあなたも是非浸ってみていただきたい。


Kiyota / Doit Science